投稿者: TAKAHASHIShu

ファウンデーション

アイザック・アシモフ/ハヤカワ文庫

 もとのオフィスに戻ると、マロウは考えながらいった。「それで、これらの原子炉はすべて、あなたがたの管理下にあるのですか?」
「ひとつ残らずそうだ」技官は自己満足以上の感情をこめていった。
「そして、あなたがたがこれらを運転し、正常に保っている?」
「そのとおり!」
「では、もし故障したら?」
 技官は憤慨したように首を振った。「故障しない。けっして故障することはない。永遠に使えるように作られている」
「永遠といえば、ずいぶん長い時間です。万一――」
「無意味な場合を想定することは科学的でない」
「わかりました。もし、わたしが枢要部を爆破して吹っ飛ばしてしまったら? もし、これられの機械が原子力攻撃に対して、弱点があったら? もし、わたしがもっとも重要な連結部を溶接してしまったり、クォーツのD=チューブは粉砕してしまったら?」
「その場合には」技官は激昂して怒鳴った。「おまえは殺される」
「ええ、それは分かっています」マロウも怒鳴っていた。「しかし、原子炉はどうなります? あなたがたは修理できますか?」
(pp.307−308)

私が殺した少女

原尞/ハヤカワ文庫

「人間のすることはすべて間違っていると考えるほうがいい。すべて間違っているが、せめて恕される間違いを選ぼうとする努力はあっていい」
「そこが、あなたと私との違いだ。私には誇りというものがある。家族を守っているという誇りだ。」
「私も誇りの話をしていたつもりだ。家族を守ると言うが、慶彦君や奥さんを一番苦しめているのは、あなたが知恵と称している”虚偽”だし、つまりはあなた自身ではないのですか」
(p.420)

【3期目のご挨拶】

当社は本日より3期目のシーズンに入ります。学校の入学・進級もプロ野球の開幕もままならないなか、なんとか3年目に入ることができましたのも、ひとえにみなさんのおかげです。ありがとうございます。本年度も、よろしくお願いします。

2019年度は、おかげさまでかなり幅広い内容の仕事をすることができました。ちょっと振り返ってみます。


●書籍編集の仕事
・三才ブックス『世界でいちばん素敵な◯◯の教室』シリーズの書籍(現状で3冊)
・誠文堂新光社にて、簿記検定試験に関する書籍
・誠文堂新光社にて、下水道資格・コンクリート技士資格に関する書籍
・海洋文化社(東京ナビゲーション)にて、小型船舶操縦士免許取得のための問題集
・日本図書センターの学校図書館向け書籍『自然災害サバイバル』全3巻
・現代けんこう出版が展開する「フレイル」関連のパンフレット、リーフレット
・三笠書房にて、「世界の神話」についての文庫

●地元(佐久市をはじめとする東信地方での仕事
・「週刊さくだいら」での記事制作
・「月刊とわいえ」での記事制作
・「季刊mamamo」での記事制作
・信濃毎日新聞「就職navi」での記事制作
・佐久商工会議所でのいくつかの企画出し、制作
・佐久市役所と協働した記事制作

●ネット関連での仕事
・KADOKAWA「ダ・ヴィンチ ニュース」での書籍レビュー(70本ていど)
・インフォメティス のウェブサイト「見守りサービス徹底比較」での記事制作(60本ていど)
・東洋経済新報社「東洋経済オンライン」での記事制作(8本ほど)
・「マイナビ看護師」「マイナビ保育士」のオウンドメディアでの記事制作(はじまったばかり)

というわけで、形になったものもたくさんありますが、わたしとしてはそれ以上に、形には(いまのところ)現れない企画のアイデアや、人とのつながり、情報源、地元でのさまざまな経験を学ぶことができた1年でした。

2020年度も、「情報の地産地消」などの理念は変えずに、この調子でさまざまな形での情報発信のお手伝いをしていこうと考えます。また、今年度からは、他人だけでなく自分からの情報発信も積極的に進めていきます。そのとりくみのひとつが、地元コミュニティラジオによるラジオ番組制作になるかと思います。こちらのほうも、応援していただければ幸いです。

以上、年度はじめのご挨拶まで。
Go Go Barnette!!

デッドライン

千葉雅也/新潮社

 それは、動物になることと女性になることはどちらが重要か、という問題である。
『千のプラトー』の第十章は、全体としては動物になることを言祝いでいるのだが、その一方で、あらゆる生成変化はまず女性になることを通過する、と言われたり、また、動物への生成変化は途中段階にすぎない、と言われたりする。
 僕は、動物への生成変化をテーマに掲げながら、むしろ女性というあり方に引っかかっていた。
「女性になりたいわけじゃない」
 と、僕はカムアウトするたびに説明していた。知子にもそう言ったと思う。
 僕は、男性をウケの立場から欲望するが、それは性同一性障害やトランスジェンダーとは別のことだ。僕は、男として男を欲望し、男に挿入される。
 僕は、自分には欠けている「普通の男性性」に憧れていた。おそらくはその欠如感が、僕を動物というテーマへと導いている。動物になることを問う、それは僕にとっては、男とは何かを問うことなのだ。
 動物になること、それは、男になることなのだ。
(『群像』2019年9月号、pp.58−59)

奈落

古市憲寿/新潮社

「歌ってどうやって始まったのかな」
「言葉が歌になったんじゃなくて、歌が言葉になったらしいよ」
 そんな何気ない会話から、いつものように歌について私たちは話し始めた。
 最初の言葉はきっと、単純で整然としたものではなく、歌うような情熱的なものだったのではないか。そんな昔の思想家の予言を裏付けるように、歌が何かの文法を持っていて、それが進化して言葉になった可能性について鳥やクジラの研究者たちが真面目に議論しているのだという。
 ということは、かつて歌うことしかできなかった人類がいたのだろうか。狩猟の時のかけ声も、愛する人への求愛も、恋敵との喧嘩も、子どもをあやすのも、その全てを歌によっていた人々がいたのだろうか。口笛や鼻歌、時には合唱を駆使して互いの思いを伝える。まるでミュージカルの世界のような、歌の楽園があったのだろうか。
 しかし彼らは淘汰され、もしくは進化して、話すことのできる人類が誕生した。おそらく言葉は人々を豊かにしたと同時に、暴力的にもしたのだろう。
 言葉は協力体制を築き、集団を作り上げるのに向いている。そして言葉は、いつだって未来を目指そうとする。
 人々に好まれる歌は、何十回、何百回、何千回と繰り返し唱和される。だから場所や集団に対する帰属意識を醸成するのに歌は向いている、だけどその分、歌は人々をひとところに留まらせようとする。
 きっと歌う人類はこの地球の片隅で、ひっそりと生きていたのだろう。そしてひっそりと次の人類にバトンを渡し、消えていったのだろう。
(pp.102−103)

モリアーティ

アンソニー・ホロヴィッツ、駒月雅子・訳/角川文庫

 アセルニー・ジョーンズが銃を抜いた。規則違反にもかかわらず武器を携行していたとは。公使館にいるあいだもずっとポケットに入っていたにちがいない。
 私は自分の銃を抜いた。ジョーンズは私を見つめた。ショックと狼狽のあとに、あきらめに似た感情が彼の目に浮かんだ。
「すまないな」私はそう言って……(以下13文字を伏す)
(p.379)

心にとって時間とは何か

青山拓央/講談社現代新書

 前節で見た「デッサン画」の議論をふまえて、私たちは発想を転換すべきだろう。五分前創造仮説とは、五分前よりも過去の世界について何も知らないかもしれないと人々を脅かすものである以前に、知っている通り(あるいは、ほとんど知っている通り)の過去がこの五分間は確実に在ったことを保証してくれるものなのだ、と。
 たとえ五分間であれ、いま在る記憶や痕跡と過去との繋がりが保証されるなら、それは僥倖と言ってよい。現実の生活において、そのような保証はけっしてなされない。私は眼前のデッサン画(輪郭と空白からなる過去の内容の像)にすがりつくようにして過去への推測を行なうが、それは、このデッサン画の正しさが保証されているからというより、それしかデッサン画がないからである。このデッサン画から出発し、その整合性に留意して、過去についての諸信念を取捨することしか私にはできない。たとえ、他人の話を聞いたり、本を読んだりした場合ですら。
(…中略…)
このとき、五分前よりも過去の世界に関して、私たちの知る歴史がなかったかもしれないのが不満な人は、いま述べた僥倖の本当の有り難みを分かっていない。枯れ木に花咲くより生木に花咲くを驚け、という言葉があるが、在ったと思う通りに過去が在ったことは、それがたとえ五分間であれ、まさに驚嘆すべきことであり、そして五分前創造仮説では、そのことが保証(!)されている。もちろん、これは設定による保証であり、現実の人間にそんな保証はできないが、だからこそ、これは僥倖なのだ。
(pp.94−95)

『時間を忘れるほど面白い 世界の神話』(三笠書房王様文庫)

ほぼ丸1冊、編集としてでなくライティングを担当しました。世界の神話をテーマにした本は、2006年以降たくさんつくりましたが、資料を調べると毎回新しい発見があるのがおもしろいところです。今回の企画では、ギリシャ、北欧、ケルト、インド、エジプト、オリエント、中国の7つの神話を集めたのですが、よく考えればそのうちの4つが、いわゆる「四大文明」をふるさとにもつ神話です。……まぁいってしまえば当たり前の話なのですが、生半可に知識があると、その当たり前に気づくのがなかなか難しいのかもしれません。

むかしからそうですが、最近ではとくに「モンスターストライク」などのソーシャルゲームから神話の魅力にたどり着く方も多いようです。そういった若い読者の方に読まれればありがたいです。

https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784837969181

『世界でいちばん素敵な古代史の教室』(三才ブックス)

編集協力として『世界でいちばん素敵な古代史の教室』(三才ブックス)という本を制作しました。じつは、先にご案内した『聖書』よりも前に仕上がっていた一冊です。

この本の制作では、さまざまな参考資料を読みましたが、もっとも頭の整理と知識の確認に役立ったのは、高校の教科書でした。みなさんご存知の、山川出版社から刊行されているオレンジ色のものです。やはり教科書はよく考えられて作られているなぁと、編集の視点からも勉強になりました。

さて、そろそろ令和2年が近づいてきています。どの1年も、過去数千年におよぶ人間の歴史の蓄積のうえに成り立っていることに思いをはせてみると、古代史がもっと身近に感じられるかもしれませんね。

https://www.amazon.co.jp/dp/4866731648